私の机の前に、前回紹介した『風に立つライオン』と並んで『Will-眠り行く前に』という本が置かれています。
女子医大を卒業し、耳鼻科医として活躍中の30代に乳がんを患い、爾来20数年の永きに渡って癌との闘いを続けてきた小倉恒子先生が2006年に出版された本です。
小倉先生は他にも数冊のご本をお書きになっていて、殆どに目を通しましたが、私にとって一番大きな印象を残したのはこの『Will-眠り行く前に』でした。
他の本と違い、小倉先生が自らの死を目の前に見ながら、自分の心情、医学生としての勉強、そしてご結婚、出産、離婚、発病と治療の過程を、ご自分の二人の子供さんに淡々と語りかける口調でかかれたものであるからだったと思います。
⇒http://www.youtube.com/watch?v=LLmmmepLvDA&feature=related
私が下手な要約をするよりも、できれば自分の目で読んでいただくのが一番よいのですが、私にとって一番印象深かったのは、
「自分の病気を憂えれば、恐怖の沼から這い上がれないような苦痛が長く長く続く。しかし、過去を嘆いてみたり自分にはこないであろう遠い将来を羨んだりせず、今日という一日を足元をしっかり踏ん張って懸命に生きていけば、たとえ癌であっても楽しく生きられる」P232-233
この部分でした。
小倉先生は、お生まれが1953年(私と同じです)。1987年(34歳)のときに癌が見つかり、2010年(57歳)でなくなるまで、23年間、抗癌剤の副作用と戦いながら、耳鼻科医として、あるいは乳癌を経験した一人の女性として、後輩や友人、あるいは同じ病に苦しむ女性の「伴走者」であり続けたのでした。
その生き方は、決して「苦行者」のそれではなく、苦しみの真っ只中にあって、なおかつその中に生きる歓び・喜びを見出そうとする、たとえて言えば「先駆者」のそれであったように私は強く感じます。
妻として、母として、そして一人の医師として、決して「百点満点」ではなかった自分の生き方を、不必要に飾ることなく、かつ不必要に遠慮もせず、文字に出来たのは、先ほど書いたように、小倉先生がご自分の子供たちへの「遺言」としてこの本を残されたからなのでしょう。
ぜひ皆さんに一読をお勧めしたい一冊です。