前述の柴田先生は、インタビューの最後にこう言います。
「僕はね、あなた方の先輩の児嶋恵美子さんの一言が一番好きなんですよ。皆さんに『初心忘るべからず』というのは、このためなんですよ」
児嶋恵美子さんという方は、その当時医学部の4年生で、自らがその数年前に交通事故に合われその体験を次のように綴っています。
「突然の事故。救急車で運ばれ、病院到着。
ドクター、ナースの顔を見て、ホッとする私に、
『最悪だよな』
『先生と当直すると、最悪の患者ばかりですね』
と一言ずつ。
そんな中、
『もう大丈夫ですから、頑張ってくださいね』
看護学生のその一言に、
思わず涙が一粒こぼれた」
(宮崎医科大学学生「心の声配達人」企画編集『患者さんの気持ち・看護婦さんの気持ち・お医者さんの気持ち』1999年、鉱脈社)
ドクターには「医・学者」としての面と、「医療・従事者」としての面があります。どちらも大事であることは言うを待ちません。ですが、両者を混同・混乱させることは許されません。医学は「病気」を見ますが、医療が見るのは「人間」だからです。
柴田先生がおっしゃりたかったことは、その点なのではないでしょうか。