2011年9月26日月曜日

先輩からの相談

医進の先輩から相談がありました。
興味ある内容だったので載せてみます。

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台風が来る前とは打って変わって涼しくなってきましたがいかがお過ごしでしょうか。
僕のほうは医療人間という科目が再試になり悔しさで一杯です(笑)
今回メールをしたのはその医療人間で出題された問題の事で外山先生に相談をしたかった為です。

その問題というのが『あるサラリーマンが企業検診で歯周病だと診断されました。しかし本人は納得出来ずあなたの医院を訪ねてきました。診察をしたところ歯周病だったのですが、その人は納得していません。どうしますか?』というものです。

それに対して『詳しく歯周病というものについて説明し、相手に理解して貰う。その後生活スタイルにあった治療を相談し決めていく』と答え、自信満々だったのですがペケでした(笑)

何故正解ではないかと尋ねてみたところ『お前は友達が納得していない時に説教を始めるのか?まずは共感だろ。』と言われました。

この共感という部分が僕の疑問です。果たして共感する事が一番効果的なんでしょうか?シチュエーションにもよりますが患者が意固地になってしまっていたら共感など何も役に立たないと思います。

僕としてはこの場面で足りていないのは患者と歯医者の信頼関係だと思います。だからまずは世間話等から始めて会話のキャッチボールが出来る、とお互い認識してから歯周病について触れてみる。それが大事だと思います。

そう思ってしまう為に担当の先生が言う『共感』の意味がきちんと理解出来てません(笑)

先生はどういう事だと思います?



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以下が私のお答えです。


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おはようございます(笑)。

確かに君の答ではぺけになるかもね(笑)。

思い出してもらいたいのは「プレゼンテーションの基本」です。覚えていますか?

自分の言いたいことではなく、相手の聞きたいことをでしたよね。

問題に出てきた患者さんは、企業検診で発見されたということですから「自覚症状・病識」はなかった(あったとしても小さかった)はずです。その上で「セカンドオピニオン」を求めてきたのでしょうね。そうすると彼(彼女?)が聞きたいのは、まずは「自分は病気のはずがない」ということに対する「共感」だったのではないでしょうか?

自覚症状がない状態だったら、誰だって病識はもてないのだというところに自分をポジショニングすることがまず第一にしなければならないことです。

「特に自覚症状はありませんよね。そうなんですよ、私は歯科医ですがたぶん自分でもこの状態なら分からないかもしれませんね」

こんなところから始めるのがいいのでは。
相手を受け止めることがラポール形成の第一歩です。

その上に立って、「ベネフィット」伝達(つまり今そのような診断を受けることが『得』なのだということを伝える)があります。

今この段階で治療をしておくと、こんなに「得」です(つまり、速く治る、後遺症がない、短期間ですむ、治療費もかからない、等)を段階を踏んで伝えることです。

「でもとてもよかったですよ。この段階なら短期間で、治療費もそれほどかからず、順調に行けば○回くらいで十分に治ります」

相手の表情を見ながら、かつ理解力を確認しつつ、必要に応じて「EBM(evidence-based-medicine」の基礎資料を示し、最後に、

「もしご納得が行かないようでしたら、もう一つ病院をご紹介しましょうか?」

という形で、患者さんの不安と不満を取除く方法もあると思います。

「意固地になっている患者さん」と書いていますが、もし本当に意固地になっているのであれば何を言っても無駄ですので、別のドクターに回したほうが楽です(笑)。

相手が自分のサイドに立ってくれる(つまり自覚症状のない状態を理解してくれている、自分にとってプラスになるようなオプションを提示してくれている、自分の考えをおしつけようとしていない等)ということが理解できて初めて「病気について知りたい」と思うわけですから、そこから始まるのが君の「説明」だということです。

その説明がいかに病理学的に正しい内容であっても、相手に聞くだけの「準備」(レディネス)がないと、ドクターが「上から目線で、自分の言いたいことだけ言っている」ことになってしまい、結局は患者さんに受け入れられなくなるということになるのではないでしょうか?

逆に言うと臨床の半分以上がここに書いたラポール形成に費やされるべきだということでもありますね。

単なる世間話は相手が飛び込みの患者さんで、生活背景が分からないときには「危険」です(笑)。若いドクターは年配の人の世間話の相手にはなりにくいですから。

むしろあくまで自分の「土俵」内にいるほうが無難ですよ。

ここに書いたことはあくまでノーマル(ジェニュイン)ペイシェントに対することなのであって、モンスターペイシェントに対してであれば、それはまた別の対応があります。

こんなところでいかがですか?(笑)。



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私の回答が完璧とは思いませんし、もしかしたらこれでも基準点は超えていないかもしれません。
でも医系の学部に入ったあとも医進塾で学んだことが生かせる分野があり、しかもそれは医療技術の習得そのものに勝るとも劣らないほどの重要性をもったものなのだということを理解していただければ、医進塾で、特にC/Pを取っている皆さんへの励みになることと思います。


このメールをくれたS君が「再・再試」にならないことを祈りたいと思います(笑)。