教員生活を35年もしていると,イヤでも分かってくることがあります。
「自分の勉強のスタイルを持っている生徒は強い。
自分のスタイルにこだわりすぎる生徒は弱い」
このことです。
今は受験生にとって必需品となった「チェックペン」というものがあります。暗記したいところを塗りつぶし,赤(みどり)のシートをかぶせて字を見えないようにし,暗記練習をするためのものです。
単語の暗記などには絶大な威力を発揮します。その部分が隠れていると,どうしてもその前後を見ざるを得ず,それが自然に,
「英単語を文脈の中で覚える」
練習になるからです。
ところが,私の教え子の一人に,これを「数学」で使った生徒がいました。
先生が板書した内容を一字一句逃さずにそのままノートに取り,チェックペンで要所々々を消し,それを『暗記』したのです。誰が見ても「数学」の勉強には似つかわしくないやりかたでしたが,本人は,
「点が取れればいいんだ」
と言って,周りの注意も馬耳東風でした。
その彼が東工大に受かったときには,皆大変に驚いたものです。
彼に言わせると,
「数学は暗記物」
なのだそうです(笑)。
受験をそのやりかたで乗り切った彼でしたが,さすがにそのスタイルが大学で通用するはずもなく,結局途中で大学を変わり,別の大学の文系学部を卒業してゆきました。
勉強のスタイルというと,私は彼のことを必ず思い出します。彼が高校時代,もう少し周りの注意に耳を傾けていたら,「間違って」(笑)理系に進むことはなかったのではないだろうか,もうちょっと周りを「見る」余裕は持てなかったのだろうか,そう思えてなりません。
理系の大学に2年間いたことが悪いというのではありません。それはそれなりに彼のためになっていることでしょう(本人は強く否定していますが・笑)。
でもどうせ理系に行くのなら,理系の勉強のスタイルを身に付けて行っていれば,たとえ結果として文系への方向転換が避けられなかたとしても,
「あの二年間は自分にとって全く無駄だった」
と,後から後悔することだけはなかったように思うのです。
「自分の勉強のスタイルを持っている生徒は強い。
自分のスタイルにこだわりすぎる生徒は弱い」
と書いた所以です。