今朝の産経新聞に載っていた記事からです。
大槌で被災された方の取材をしていた記者が、一ヶ月の取材を終えいよいよ帰京しようとする直前、最初に取材した避難場所にお別れを言いに行きました。
そこにいた80歳近いお年寄りの一人が、避難所の外で話そうとその記者を手招きします。
そのご老人はそこで、その若い記者の手を握りながら、次のように言ったのです。
「前回あなたが来てくれたときには、周りに人がいるので言えなかった。
ありがたいことに震災この方、本当に多くの方の助けをいただいてきた。
大槌が復興するまで10年以上はかかるだろう。復興まで自分が生きていられるかどうか・・・。でも大槌の復興がなったそのとき、日本のどこかで起こるだろう災害に、大槌が精一杯ご恩返しできるまで、自分はなんとしても死ねない。何としても死ねない・・・」
そう言いながらそのお年寄りは大粒の涙を流し、嗚咽したというのです。
私もこの話しを読んだとき涙を禁じえませんでした。
人間が生きる目的、これは大きな問題です。人は何のために生きるのかという問いかけは古来多くの思想家、哲学者、宗教家を悩ませてきました。
でもその答えのすべてはこのご老人の言葉の中にあるのではないでしょうか。
人は一人では生きて行けない、一人ででも生きて行くという気持ちをもたないと集団でも生きていけない、でも、それはすべて自分以外の人間のため。
このことだと思います。
医進塾に集う若者たちは、考えられないほどのさまざまな「恩恵」を周りから受けています。
その恩恵は、与えてくれた方々に直接お返しすることはできないかもしれません。
でも、いつかこの恩恵を返そうという気持ちが今の彼らを支えて行きます。
人間の社会に対する「ご恩返し」、最近ははやらない言葉かもしれません。しかしこの言葉ほど生きる意味を的確かつ明確に言い表した言葉はないでしょう。
自分のくじけそうになる心を、自分以外のものが支えてくれているという事実を見つめながら、いつかそれを「ほかの人を支える」ことで返そうとする決意と努力、これがよい「医師・獣医師」を作って行く元になるものなのだ。私にはそう思えてなりません。
Pay it forward「前に返そう」の本当の意味だと思います。