学校の外を歩いているとき、どこからか沈丁花の香りが漂ってきました。
嗅覚と記憶の結びつきはきわめて強いもので、ある香りが自分の深層心理に眠っているさまざまな記憶を一度に引き出してくることも多々あります。
私にとって沈丁花の香りは、もう40年以上前、福岡県の博多に住んだときを思い出させます。まだ高校生だった私が父の転勤に伴われて東京から博多に行き、そこで住んだ家のかなり広い庭に、大きな沈丁花の木があったのです。
ちょうどこの時期になると、庭の端にあった沈丁花から、思いもかけないほどの強い香りが私の部屋にまで漂ってきて、あ、春が間近なのだなぁ・・・と思わせたものでした。
博多には足掛け3年ほどしかいませんでした。
でも私には忘れられない場所です。
医進塾のある早稲田ゼミナールの校舎は、表側こそ繁華街ですが、裏に回ると完全な住宅街です。早稲田大学のほうに向かってちょっと奥に入ると、戦災にあったとは思えないような戦前のつくりのままのお宅がたくさん残されています。
その辺りに沈丁花がたくさん植えられ、その香りが医進塾の校舎に届くのです。
今までこの医進塾で学んだたくさんの塾生、そしてこれから学ぼうとする新しい塾生の全員にとって、この沈丁花の香りが、自分たちの人生で一番苦しく、かつ一番輝いていた時代を思い起こさせることを願います。
その思い出が、将来の苦労を乗り越えるための縁になってくれることを祈りたく思います。