2012年11月19日月曜日
「いのち」への視線①
少し長いのですが、FBである方から送ってもらった記事です。塾生にも同じものを配りました。
################
【いのちをいただく】
「いただきます」って、
日本ならではの言葉なんだそうです。
だから、
この言葉を知らない外国の人は、
「いただきますって、何ですか?」
「それは、神に対する祈りですか?」
と聞いてきます。
もしもですよ、
みなさんが子どもたちに、
「なんで食べる前に『いただきます』
って言わなきゃいけないの?」
って聞かれたとしたら、
どう答えますか?
たぶんですね、
みなさんは、
「それはね、
命をいただく動植物、
食料を生産してくれた人、
そして調理してくれた人に
感謝するためなんだよ」
って答えるんじゃないかな、
と思うんですけど、
子どもたちにその話をして、
はたして
どれくらいの子どもたちが
心から納得するでしょうか?
よく考えてみるとですよ、
子どもたちはおそらく、
似たようなことを
何回も聞いているはずなんです。
でも、残念ながら、
それが多くの子どもたちの心に
響いていないのが
現状ではないでしょうか?
それどころか、
給食指導の時間にですよ、
「ちゃんと
いただきますを言わんね!」
「ごちそうさまは?」
「はい、合掌していない人が
いるからやり直し!」
なんて、
つい言ってしまうことって、
ありますよね?
中学2年生の理科で、
「動物の生活と種類」という
単元がありまして、
その中で動物と植物の違いに
ついて学習します。
動物と植物の一番の違いは何か?
それはですね、
「動物は、
食べるために
動かなければならない。
植物は、
食べる必要がないので
動かなくていい」
です。
植物は動けない、
じゃないんです。
動かなくていいんです。
なぜか?
生きていくための栄養を、
自分の力で作り出すことが
できるからです。
私たち動物には
それができません。
だから、
どうしても他の生き物を
「食べる」必要がある。
動物だろうが植物だろうが、
どんな生き物であっても、
自分の命の限り
精いっぱい生き続けたい、
そう願って生きているんだと
私は思います。
私たち動物は、
そんな他の生き物の「いのち」を
奪わなければ、
一時も生きていくことができない、
悲しい宿命を背負った
生き物なんです。
食を考えることは、
命について考えることです。
このことを、
どうやって子どもの心に
響かせるのか、
そして、
どうやって子どもの心に
火を灯していくのか、
それが、
きっとプロとしての
教師の仕事なんだろうと
思うんです。
私の心に深く残っているお話が
二つありますので、
ここでご紹介します。
一つは、
九州大学大学院助教授の
佐藤剛史先生が書いた、
「自炊男子~
『人生で大切なこと』が見つかる物語」
の中に出てくるお話です。
-------------------
「いただきます」「ごちそうさま」を
なぜ言わなければならないか
分かりますか?
「いただきます」の意味の一つは、
「作ってくれた人の命をいただく」
ということです。
命とは時間です。
ある人が80歳で
亡くなったとしましょう。
ということは、
80年間という時間が、
その人の命だということです。
今朝、みなさんのお母さんは、
30分かけて朝ご飯を作りました。
今日の夕食、お母さんは、
1時間かけて夕ご飯を作ります。
その朝ご飯には
お母さんの30分ぶんの命、
夕ご飯には
1時間分の命が
込められているのです。
みなさんが生まれてから
今日までの間、
お母さん、お父さんは、
自分の命の時間を使って、
みなさんを食べさせてきたのです。
そして、
これから親元を離れるまで、
ずっと、みなさんは、
お母さん、お父さんの
命の時間を食べていくわけです。
「いただきます」の意味の一つは、
「作ってくれた人の命をいただく」
ということです。
食べ物を粗末にすることは、
作ってくれた人の命を
粗末にすることです。
心を込めて、
「いただきます」「ごちそうさま」
を言いましょう。
食べ物を作ってくれた人に
感謝の気持ちを
忘れないようにしましょう。
-------------------
そしてもう一つは、
内田産婦人科医院の
内田美智子先生が書いた、
「いのちをいただく」
という絵本のもとになったお話です。
この絵本、
クラスの子どもたちや、
ご自分のお子さんに
ぜひ読み聞かせてあげてほしい、
そんな願いを込めて
ご紹介しますね。
-------------------
坂本さんは、
食肉加工センターに勤めています。
牛を殺して、
お肉にする仕事です。
坂本さんは
この仕事がずっといやでした。
牛を殺す人がいなければ、
牛の肉はだれも食べられません。
だから、
大切な仕事だということは
分かっています。
でも、
殺される牛と目が合うたびに、
仕事がいやになるのです。
「いつかやめよう、いつかやめよう」
と思いながら
仕事をしていました。
坂本さんの子どもは、
小学3年生です。
しのぶ君という男の子です。
ある日、小学校から
授業参観のお知らせがありました。
これまでは、
しのぶ君のお母さんが
行っていたのですが、
その日は用事があって
どうしても行けませんでした。
そこで、
坂本さんが授業参観に
行くことになりました。
いよいよ、
参観日がやってきました。
「しのぶは、ちゃんと手を挙げて
発表できるやろうか?」
坂本さんは、
期待と少しの心配を抱きながら、
小学校の門をくぐりました。
授業参観は、
社会科の「いろんな仕事」
という授業でした。
先生が子どもたち一人一人に
「お父さん、お母さんの
仕事を知っていますか?」
「どんな仕事ですか?」
と尋ねていました。
しのぶ君の番になりました。
坂本さんはしのぶ君に、
自分の仕事について
あまり話したことが
ありませんでした。
何と答えるのだろうと
不安に思っていると、
しのぶ君は、
小さい声で言いました。
「肉屋です。普通の肉屋です」
坂本さんは
「そうかぁ」とつぶやきました。
坂本さんが家で新聞を読んでいると、
しのぶ君が帰ってきました。
「お父さんが仕事ばせんと、
みんなが肉ば食べれんとやね」
何で急にそんなことを
言い出すのだろうと
坂本さんが不思議に思って
聞き返すと、
しのぶ君は学校の帰り際に、
担任の先生に呼び止められて
こう言われたというのです。
「坂本、何でお父さんの仕事ば
普通の肉屋て言うたとや?」
「ばってん、カッコわるかもん。
一回、見たことがあるばってん、
血のいっぱいついてから
カッコわるかもん…」
「坂本、
おまえのお父さんが仕事ばせんと、
先生も、坂本も、校長先生も、
会社の社長さんも肉ば食べれんとぞ。
すごか仕事ぞ」
しのぶ君はそこまで一気にしゃべり、
最後に、
「お父さんの仕事はすごかとやね!」
と言いました。
その言葉を聞いて、
坂本さんはもう少し仕事を
続けようかなと思いました。
ある日、
一日の仕事を終えた坂本さんが
事務所で休んでいると、
一台のトラックが
食肉加工センターの門を
くぐってきました。
荷台には、明日、
殺される予定の牛が
積まれていました。
坂本さんが
「明日の牛ばいねぇ…」
と思って見ていると、
助手席から十歳くらいの女の子が
飛び降りてきました。
そして、
そのままトラックの荷台に
上がっていきました。
坂本さんは
「危なかねぇ…」
と思って見ていましたが、
しばらくたっても
降りてこないので、
心配になって
トラックに近づいてみました。
すると、
女の子が牛に話しかけている声が
聞こえてきました。
「みいちゃん、ごめんねぇ。
みいちゃん、ごめんねぇ…」
「みいちゃんが肉にならんと
お正月が来んて、
じいちゃんの言わすけん、
みいちゃんば売らんと
みんなが暮らせんけん。
ごめんねぇ。
みいちゃん、ごめんねぇ…」
そう言いながら、
一生懸命に牛のお腹を
さすっていました。
坂本さんは
「見なきゃよかった」
と思いました。
トラックの運転席から
女の子のおじいちゃんが降りてきて、
坂本さんに頭を下げました。
「坂本さん、
みいちゃんは、
この子と一緒に育ちました。
だけん、
ずっとうちに置いとくつもりでした。
ばってん、
みいちゃんば売らんと、
この子にお年玉も、
クリスマスプレゼントも
買ってやれんとです。
明日は、どうぞ、
よろしくお願いします」
坂本さんは、
「この仕事はやめよう。もうできん」
と思いました。
そして思いついたのが、
明日の仕事を休むことでした。
坂本さんは、家に帰り、
みいちゃんと女の子のことを
しのぶ君に話しました。
「お父さんは、
みいちゃんを殺すことは
できんけん、
明日は仕事を休もうと思っとる…」
そう言うと、
しのぶ君は「ふ~ん…」と言って
しばらく黙った後、
テレビに目を移しました。
その夜、
いつものように坂本さんは、
しのぶ君と一緒に
お風呂に入りました。
しのぶ君は坂本さんの背中を
流しながら言いました。
「お父さん、
やっぱりお父さんが
してやった方がよかよ。
心の無か人がしたら、
牛が苦しむけん。
お父さんがしてやんなっせ」
坂本さんは
黙って聞いていましたが、
それでも決心は
変わりませんでした。
朝、坂本さんは、
しのぶ君が小学校に出かけるのを
待っていました。
「行ってくるけん!」
元気な声と扉を開ける音がしました。
その直後、
玄関がまた開いて
「お父さん、
今日は行かなんよ!
わかった?」
としのぶ君が叫んでいます。
坂本さんは思わず、
「おう、わかった」と
答えてしまいました。
その声を聞くとしのぶ君は
「行ってきまーす!」
と走って学校に向かいました。
「あ~あ、子どもと約束したけん、
行かなねぇ」とお母さん。
坂本さんは、渋い顔をしながら、
仕事へと出かけました。
会社に着いても気が重くて
しかたがありませんでした。
少し早く着いたので
みいちゃんをそっと見に行きました。
牛舎に入ると、みいちゃんは、
他の牛がするように角を下げて、
坂本さんを威嚇するような
ポーズをとりました。
坂本さんは迷いましたが、
そっと手を出すと、
最初は威嚇していたみいちゃんも、
しだいに坂本さんの手を
くんくんと嗅ぐようになりました。
坂本さんが、
「みいちゃん、ごめんよう。
みいちゃんが肉にならんと、
みんなが困るけん。
ごめんよう…」
と言うと、
みいちゃんは、
坂本さんに
首をこすり付けてきました。
それから、坂本さんは、
女の子がしていたように
お腹をさすりながら、
「みいちゃん、じっとしとけよ。
動いたら急所をはずすけん、
そしたら余計苦しかけん、
じっとしとけよ。じっとしとけよ」
と言い聞かせました。
牛を殺し解体する、
その時が来ました。
坂本さんが、
「じっとしとけよ、
みいちゃんじっとしとけよ」
と言うと、
みいちゃんは、
ちょっとも動きませんでした。
その時、
みいちゃんの大きな目から
涙がこぼれ落ちてきました。
坂本さんは、
牛が泣くのを初めて見ました。
そして、
坂本さんが、
ピストルのような道具を頭に当てると、
みいちゃんは崩れるように倒れ、
少しも動くことはありませんでした。
普通は、
牛が何かを察して頭を振るので、
急所から少しずれることがよくあり、
倒れた後に大暴れするそうです。
次の日、
おじいちゃんが
食肉加工センターにやって来て、
坂本さんに
しみじみとこう言いました。
「坂本さんありがとうございました。
昨日、あの肉は少しもらって帰って、
みんなで食べました。
孫は泣いて食べませんでしたが、
『みいちゃんのおかげで
みんなが暮らせるとぞ。
食べてやれ。
みいちゃんにありがとうと
言うて食べてやらな、
みいちゃんがかわいそうかろ?
食べてやんなっせ。』
って言うたら、孫は泣きながら、
『みいちゃんいただきます。
おいしかぁ、おいしかぁ。』
て言うて食べました。
ありがとうございました」
坂本さんは、
もう少しこの仕事を
続けようと思いました。
-------------------
ある学校で、
保護者の一人から、
「給食費を払っているのに、
『いただきます』と
子どもに言わせるのはおかしい」
というクレームがあった、
との話を聞いたことがあります。
「なんという常識のない保護者なんだ!」
と片付けるのは簡単です。
でも、もしもこの保護者が、
この話を知っていたとしたら、
どうだったでしょう?
現在の食生活は、
「命をいただく」というイメージから
ずいぶん遠くなってきています。
そしてその結果、
食べ物が粗末に扱われて、
日本での一年間の食べ残し食品は、
発展途上国での、
何と3300万人分の年間食料に
相当するといいます。
私たちは
奪われた命の意味も考えずに、
毎日肉を食べています。
動物は、みんな自分の食べ物を
自分で獲って生きているのに、
人間だけが、
自分で直接手を汚すこともなく、
坂本さんのような方々の
思いも知らないまま、
肉を食べています。
動物だろうが植物だろうが、
どんな生き物であっても、
自分の命の限り
精いっぱい生き続けたい、
そう願って生きているんだと
私は思います。
命をいただくことに対しての「思い」。
お肉を食べて
「あ~、美味しい。ありがとう」
お野菜を食べて
「あ~、美味しい。ありがとう」
そこに生まれる思いは
どんな思いでしょう?
お肉を食べて
「うぇ~、マズッ!」
お野菜を食べて
「うぇ~、マズッ!」
そこに生まれる思いは
どんな思いでしょう?
食べ物をいただくとき、
そこに尊い命があったことを忘れずに、
その命を敬い、
感謝の言葉をかけてあげられる人に
育ちましょう。
今日もまた、
食べられることへの感謝の言葉、
「ありがとうございます。
感謝します。
いただきます」
食べているときの
「美味しい!」という言葉。
そして食べ終わった後の、
「あ~、美味しかった。
ありがとうございます。
ご馳走さまでした」
という「食べられたこと」への
感謝の言葉をかけてあげましょう。
もちろん、食べ残しをせずに。
食べ物が、
あなたの体を作ります。
あなたの体に姿を変えて、
あなたの中で生き続けます。
そして、
体の中からあなたを精いっぱい
応援してくれています。
あなたができる最高の恩返しは、
たくさんの生き物たちから
命のバトンを託された
あなたの命を、
いっぱいに輝かせること。
喜びに満ちた
人生を過ごすこと。
それが、
あなたと共に生きている
たくさんの命たちが、
いちばん喜ぶことなんです。
みんなの分まで、
命いっぱいに輝きましょう。