中学・高校と柔道をやり、大学からつい先日まで空手をやってきた身として、武道関連の番組や小説、映画、マンガには普通以上に興味があります。
少し前にかなりの評判になったマンガにに『柔道部物語』というのがありました。荒唐無稽のテクニックやワザが多いこの手のマンガのなかでは、かなり正統派だったように思います。毎回週刊誌で読んでいたのですが、完結のしかたがあまりに爽やかだったので、シリーズで12巻をそろえて買って、今でも時々読んでいます。
筋は非常に単純で、商業高校に進学した三五十五(さんご、が苗字で、じゅうごが名前)君が、生まれて初めて柔道をやり、最初はイヤでイヤでしょうがなかったものが次第に興味を持ち、面白くなり、いろいろな試練を乗り越えて、ついに高校柔道の頂点に立つというものです。
小林誠さんが描いた作品で、おそらく小林さんはご自分でも柔道の経験がかなりあるのでは、と思わせる場面が随所にでてきます。スポコン物には違いないのですが、悲壮感がなく、適度にユーモアもあり、笑わせる場面、泣かせる場面が上手に配分してあって感心したことを覚えています。
三五君は最初は大変に弱いのですが(白帯から始めたのですから当然ですが)、あるときふとしたきっかけで背負い投げのタイミングを掴みます。それから破竹の勝利を重ねて全国大会にまで出場するようになります。そしてそこで講談館浦安高校の「西野新二」という、とてつもない「怪物」に出会うのです。
勝ち抜き試合で先鋒(最初の選手)から副将(4人目の選手)まで、全て一本勝ちで西野に抜かれた三五君の学校(岬商業)は、最後の大将戦に全てをかけます。三五君の、これ以上ないというくらいにきれいに入った必殺の背負い投げが、西野新二には全く通ぜず、ものの見事に返されて一本負け。岬商業はついに全国制覇を逃し、二位に甘んずるのです。
結局三五君はそのあと最終的に西野君に勝ちます。ですがそれまでの練習が実に痛快なのです。監督の五十嵐先生が考案した「笑う角には福来る」戦術(要するに、おかしくもないのにゲラゲラ笑う訓練)、「袖釣り込み腰と内股を両方かける」訓練(柔道を知らない人にはわかりにくいかもしれませんが、この二つのワザは足と腰の使い方が正反対で、両方同時にかけることは不可能なのです)などがちりばめられていて、読んでいて思わず笑いに引き込まれます。
この五十嵐先生という人も、面白い人で、練習中に柔道部員全員に「オレッて天才だ~!!」とか「オレッてストロングだぜ~!!」とか、叫ばせるのです。そうかと思うと「あまり天才だと気が重くなったりするから」と言いながら、「オレッて、バカだ~!」などと同時に叫ばせたりする、なかなかにクエナイ先生なのです(笑)。
西野新二にやられて自信をなくし、下級生にも投げられるようになってしまった三五君が、再び立ち上がって再度練習に向うとき、彼を今まで力づけてきた仲間の一人が彼に聞きます。
「西野に勝つ算段はあるのか?」
三五君が答えます。
「西野にはつけ入るスキなんかないよ。西野に勝つには、西野より強くなるしかないんだ」
私はこの三五くんのことばが大好きなのです。
相手を調べて、そのスキをつくのも大事な戦術です。相手を知らなければそもそも闘いようがありません。でも最終的に相手に勝つには、その相手より強くならねばならない。それは当然なことなのです。
テクニックばかりに走らず、最終的には力をきちんとつけたものが勝つ。なんだか柔道だけではなく勉強にも通じることなのではないでしょうか?