認知学習理論
「英文法教室」の指導基本理論となっている「認知学習理論」について説明します。
認知心理学(20世紀の後半に発展した心理学で、現在の心理学全般の主流となっている考え方です)を応用した学習理論という意味で使っています。
認知心理学というとなんだか難しそうだと思われるかもしれません。でもそんなことはなくて、そもそもここでいう「認知」は人間の外界認識活動のすべてを指します。私たちは日本の社会に普通に生まれ育ち、生きている限り「日本語」を使っています。私たちの外界認識の過程には「日本語」が非常に大きく「絡みついている」ということなのです。
「認知学習理論」は、その人間にもともと備わっている基本的な認知活動を大事にしようというところから始まる考え方です。英語という外国語を学習するときに、まず私たちの認識の基本をなしている「日本語」から入ろうという考え方でもあります。
言われてみれば「あたりまえ」のことかもしれません。ですが、学校の授業ではこれが見落とされることが多いのです。英語の文法的な構造を理解するのに、英語から入ってしまうということです。皆さんが中学校や高校で受けた英語の授業を思い出してください。最初に先生が黒板に基本文(英文)を書き、それはどのような構造で、単語に意味はこうで、結果としてその英文は「こういう意味になる」と教わった方が多いのではないでしょうか。
「認知学習理論」では、このような教え方をしません。むしろ母国語の文章を理解させ、その理解に基づいて、英文を理解してもらうのが基本的な方針です。具体的に「現在完了形」を取り上げます。中学生の7割が「理解できていない」と言われるのが、この「完了形」です。中2で英語が嫌いになったという生徒へのアンケートでは80%以上の生徒が、嫌いになったきっかけとして「完了形」を挙げています。
「have +過去分詞」が四種類の意味を表す、と聞いただけで、「え!」と思う生徒は多いですね。ですがその説明をする前に、
「私は英語を勉強し始めた」
「私は今まで3年英語を勉強している」
「今も英語を勉強し続けている」
という日本語を出して、その差を徹底的に理解させた後で、「英語ではそれらの内容を一つの形で言うことができます」と説明すると、面白いように頭に残るものです。
※話を分かりやすくするために現在完了形の継続用法を取り上げました。一般にはここで解説した内容は「現在完了進行形」で表現されることが多いですね。
ここでは一種類の日本文しか出していませんが、実際には「思つく限りたくさんの日本文を挙げてください」と指示し、板書しきれないほどたくさんの日本文を書いてもらいます。その段階で生徒の頭の中には明確な「完了形に対する理解の構え(readiness)」ができた状態になるのです。英語のhave + 過去分詞という形を教えるのは、それからで遅くないし、むしろそのほうが混乱を避けることができる、ということなのです。
こんな風にして「日本語ではこういう言い方をするけれども、英語ではこのような言い方になりそれはこういう理由だからです」ということが納得できるようにするのが「認知学習理論に基づいた英文法指導」です。
私がこの方法論を授業に導入したのは、21世紀に入ってからすぐのことでした。いままでたくさんの生徒さんと一緒に勉強をしてきましたが「この方法はわかりにくい」と言われたことは、幸いなことに一度もありません。
よろしければ一度お試しください。