2008年6月16日月曜日

チップス先生、さようなら・・・

昨日、ヒルトンの名作『チップス先生さようなら』の、昔の映画を見ました。デジタル処理したDVD版です。モノクロの映画など見るのは本当に久しぶりです。数日前に水野 晴郎さんがお亡くなりになったという記事を見て、昔の映画を見てみたいと思い、500円で購入して見ないままにしてあったこのDVDを引っ張り出してきたものです。

このDVDを長い間みなかったのには理由があります。小説のほうがあまりにすばらしくて、映像で印象を限定されたり壊されたりするのがイヤだったからです。

ストーリーはいたって単純明快。ブルックフィールド校という、名高いパブリックスクールに赴任した若き教師のチッピングが、60数年の教職生活を勤め上げ、最後には校長職にまで手の届くところに至りながら、最終的には「公式の任命をしない、校長事務取り扱い」という立場に殉じ、退職して後、多くの生徒の思い出を胸に秘めながら死んでゆくというだけのものです(煩瑣な説明を避けるために映画では臨時の校長職に正式につくことになっていますが)。

チップスという稀有な人材(というよりも、「平凡」であるという点では引けをとらないと自他共に認める人材)と、ブルックフィールドという伝統的な学校のおりなすきわめて日常的な出来事を、それはそれで非常に誠実に果たそうとする、人間同士の交流の奥深さが余すところなく表現されているのがこの小説でした。

今はだいぶ変わったように聞いておりますが、イギリスの古きよき時代のパブリックスクールの伝統と、イギリス人の誇りとが画面上いたるところに見られるすばらしい映画でした。小説と印象がほとんど変わらなかったのも嬉しいことでした。

見終わっての感想ですが、こんなに単純な映画がなぜこのように大きな感動を与えてくれるのか、改めて考えさせられました。でもそれはこの映画のもつ「単純な本質」のなせるワザなのだと思えば不思議もありません。

小説でも映画でも、この映画の主題は「教育の本質」です。そしてそれを可能にするのは深い愛情に支えられた直接的な人間関係をおいて他にはないという自信に満ちたメッセージを(映画も小説も)私たちに届けてくれているのです。

ネットも大切、ケータイも便利。でも本当の人間関係を支える「感動」は、時代や国柄を超えて不変です。それが最も分かりやすい形で現れるのが「教育の場」なのでしょう。

私自身はチップス先生になどはなりきれませんが、それでも与えられた場と人間関係との忠実でありたいと願っています。

私は先日55歳になりました。でもチップス先生がなくなられた87歳という年齢までにはあと30年以上あります。その30年をどのように生きるか、そんなこともチップス先生はそれとなく教えてくれたように思います。

私の高校時代からの愛読書の一冊でもある『自由と規律』(岩波新書)を、なんとなくもう一度読みたくなっているのを感じます。同じテーマを扱っており、時代的にも重なる部分が多いからなのでしょう。

今週は「古きよき時代のイギリス」について考えるのがテーマになりそうです(笑)。